日々是好日

Chumi2004-11-07


早朝からてんわわんやの一日となった。
今日は娘の学校の茶道部”追い出し”茶会である。高校の3年間でお稽古に励んできた成果を披露するのだ。3年生が着物を着てお点前をし、1年2年生は、白いブラウスに黒いスカートでお手伝いをする。
集合9時。会場は幸いわが家から徒歩15分くらいの処であったので助かった。ヘアメイク後ほぼ予定通り7時30分より着付け開始。前日ネットで学習し、自分で練習をしておいたので 慌てることなく なんなくクリア。と思いきや”おまく”(枕)をして、帯をギュッと絞めたところ ”ビリっ!”。ぎゃ〜〜〜何?何?破れた?
おそるおそる確認すると、名古屋帯の三角に縫いつけてあるところが ほつれていた。うげげー。でも、全体に支障はない。後からまた縫えば良いこと。今から着物と帯をかえるなんて時間的に無理っ。ええぃ、このままいったれー。
なんとか時間通りに着付けを終えた娘を会場まで車で送る。さぁ、これから自分たちの支度だ。娘達高校3年生たちは、お点前さん 半東さん(お道具の説明をする人)受付とローテーションするという。娘は、お点前さん一番で10時スタート。急がなくてはならない。さて、私たちの服装はと・・・学校のクラブだから、カジュアルでいこうと思っていたのだが、卒業茶会となるとお客さまたちは、もしかして正装〜準正装の服装で来られるかもしれない。娘に恥をかかしては・・と思い セーターとスカート ポロシャツとズボンをタンスから引っ張り出してきたモノの、急遽カジュアル路線を変更し、スーツにした。第一あれこれコーディネイトを考えなくても良いし、楽。とストッキングを引っ張り上げれば、長蛇のデンセンが発覚!ぎゃ〜〜。慌てて履き替える。
さて、スーツで茶会で正座となってくるとますます行きづらくなってきたのが、わが家のおやじ。正座は彼にとって拷問以外なにものでもないであろう。しかも昨日は得意先の披露宴〜2次会〜3次会に流れて祇園お茶屋遊びをこなし、二日酔い状態である。だが、娘に「お父さんにも来て欲しい」といわれたからにゃ〜行ってやらねばなるまい。暗雲を頭に乗せたまま、重い腰をあげた彼だったが、イヤ〜な予感は当たってしまった。
会場の受付に10分前についたが、私たちが一番乗りだった。受付には娘と同級生のめんこいギャルが二人にっこり座って迎えてくれた。とってもかわいい〜〜!着物がよく似合っている。お召しの着物も素敵だ。お茶券を買ってお待ち合いで腰掛けていると、誰かの母親とそのおばあちゃまらしき方がみえた。おばあちゃまは、受付で「少しだけどお稽古の足しに」と何やら包みを渡し、母親は包装された箱を「皆さんで分けてね」と渡した。し、しまった〜〜〜!うっかりしていた。普通お茶会に招待されたときは”水屋見舞”と呼ばれる金一封をもってくるのが習わしになっていたのだった。あっちゃ〜〜、すっかり忘れていた。とショックを受けていると隣でもっとショッキングなことが起こった。旦那の様子が変だ。
「あかん、わし気分悪い。お前の運転に酔った」と青い顔してふらっと立ち上がると、隣のトイレに駆け込んだ。駆け込み際の横顔をみるとほっぺが河豚のように膨らんでいた。
げっ?まじヤバいんちゃうん。旦那はなかなか出てこない。もうすぐお声が掛かるかもしれないのに。それに運転に酔ったって?80kmの距離を私が運転する横で何度も座っていたことがあるのになんでホンの10分たらずの距離の運転で酔う?
お席の準備が遅れているのか、お声はまだなかなか掛からない。隣に座ったおばあちゃまと話すと、うちの娘がお点前さんをする時に半東さんをされるお嬢さんのご家族ということがわかった。半東さんをされる第1席で入り、娘と彼女がチェンジして、彼女がお点前さんをする席でも入ると言う。孫の晴れ姿が嬉しくてたまらない様子。
そこへ女子高校生二人がやってきた。お揃いの黒いブレザーとグレーのチェックのプリーツミニスカを履いている。どうも制服のようだ。最近の制服って おしゃれねー。
男子高校生2人もやってきた。一人は、さほど背が高く無いイガグリ頭でワークシャツにジーンズ。膝にデッカイ穴付き。もうひとりは、ほっそりと背が高く、白いシャツに黒のベストを着たちょっぴりイケメンタイプ。女の子二人連れは理解できるが、この男子2名はいったい何??あ、は〜ん。そうかそうか。だれかの応援で来てる訳ね。それとも半東さんする子の彼?いいよなーこうゆうのって。とマジマジ男子高校生を観察していると旦那が姿を現した。青白い顔。
「大丈夫ぅ?お席に入らずにここで待っとく?無理しんほうがええよぉ」
「大丈夫」
ぜんぜん大丈夫じゃない顔してるじゃんよ。ほんまに大丈夫かいな。わび・さび・げろ なんてかんにんやで〜〜。出そうになったら、再び飲み込むんやで。ええな(笑)
そこにお声が掛かった。「お席の用意が整いましたのでどうぞ」
お茶席に入るときには、かならず必ず大抵ひと揉めある。誰が「お正客」になるかだ。「お正客」とは、真っ先にお茶を戴く人で一番上座の席に座る。座るだけではなくて、お点前さんと言葉をかわし、お道具など種々の突っ込んだ質問をしたりしなければならない。普通茶道の心得のある上級年配者が、謙遜の譲り合いの嵐のあと、座られるポジションなのだ。
半東さんのおばあちゃまより「お正客お願いしますね」と言われた。ぶるる〜〜。とんでもない。お稽古しなくなってから何年たつ?もうすっかり忘れちゃいました。
ここで、「いえ、とんでもない。どうぞ、そちらこそお正客をお願いします」と返すのがあたりまえなんだけど、するってーと「いえいえ そちらでどーぞ」とまたまた返ってくるのがわかっていたし、私はこの「誰がお正客か」の延々と続く譲り合いの嵐が辛気くさくって大嫌いだったから、思い切って、せっかくの機会だからと 只今お稽古中の制服の女子高校生たちに譲った。彼女たちはすんなり座ってくれた。素直でよろすぃ〜。3番目に厚かましく私が座らせてもらった。写真を撮るのにベストポジションだ。へっへ〜。
続いておばあちゃま、お母様、旦那、男子高校生いがぐり、男子高校生ぷちイケメンと座した。
そして、お点前が始まった。娘がめちゃくちゃ緊張して入ってきた。着物を着たペンギンのようだ。どうも歩幅と畳の幅が合わないようだ。出す足は決まっている。畳の縁は決して踏んじゃいけない。ほどなくして同級生の半東さんが入ってきた。お!美人だ。オレンジのあでやかな綸子の訪問着。渋いグリーンがかった黄土色の袋帯は大胆に「のしめ」に結んである。豪華だ。渋めの帯に紅色の帯揚げが効いている。髪は左右に三つ編みの編み込みで、後ろにオーストリッチの白いふわふわの髪飾り。副部長だそうだが、かなり気合いがはいっている。「本日はお忙しい中 わたくしどものお茶会にお運びくださいましてありがとうございます。まだまだ未熟ではございますが・・・」と美人の彼女が手をつきながら口上をすらすら述べる。可愛いなぁ〜。
あ、そうだ。美人に見とれて忘れてた。旦那は大丈夫かしらん?と視線をなげると、その視界の中で旦那より辛そうな男子高校生イガグリが目に入った。だれかに説教されているみたいだ。うつむいて歯を食いしばっている。おいおい〜だいじょうぶかぁ?まだ はじまったバカリだよ。その横のぷちイケメンは堪えているのか平気な様子なので、イガグリの辛そうな様子がますます可笑しい。
うちの娘はどうだ?と視線をもどすと よどみなくお点前をしていたが、お正客がお茶をよばれている時、猫が顔を洗うようなポーズで右手をグーにして顔を拭っている。な?なにしてる?
後で聞くと、一番でめっちゃ緊張していたらしく、汗びっしょりになり、お茶を立てているときにボトッと汗が1滴落ちたと言う。ぎゃ〜〜!恐ろし〜。お正客かわいそー と言うと、お茶碗には入らなかったが ヤっば= と思って、待ち の時に汗を拭っていたのだそうだ。やれやれ。
私は?というと、指輪を外すのを忘れていたことをぎりぎり思い出し、あわてて指輪をぬいた。お茶碗を傷つけないよう茶道では指輪は御法度である。焦っているときに限って指輪が食い込んでなかなか抜けない。指がむくんでいるのだった。
3人目からは、水屋からの立て出しとなった。さながら着物のファッションショーのようにあでやかな着物姿の高校3年生が入れ替わり立ち替わりお茶を持って現れた。皆可愛いので しばしボー然と眺める。旦那はお菓子は食せずパスしたようだが、心配された粗相もなく、我が娘の晴れ姿のため、なんとか持ちこたえたようだ。よっ、父の鑑。えらいよ。
最後に、娘がこちらに向き返り、お茶杓とお棗の御銘を言うときに手をついた姿を見て、冷や汗が出た。おいおい〜、なんやの その手のつき方は〜(^^; まるで新撰組ヴァージョンやん。イカツ過ぎ!角度つけ過ぎ!そのお辞儀はどちらかというと「拙者は」タイプ!あとで注意しとこ。
美人半東さんは、流暢にお道具の説明を終え、娘は また ぎくしゃくとペンギンのように歩いて水屋へ消え、第1席は無事終了した。
ゲストが退席する時がまた大変だった。男子3人の足が痺れてなかなか立てない。だが、さすが亀の甲より年の功、数々の修羅場を潜っているだけあって、3人の中で旦那が一番に立ち上がった。続いて、ぷちイケメン。そして最後イガグリは転がるように退席し、また私たちを楽しませてくれた。彼はなかなかのパフォーマーなのかもしれない。
一旦帰宅後 再度「御水屋見舞」の金一封をつつんで、受付にとどける。帰宅すると旦那がダウンしていた。ぎゃ〜〜。やっぱり無理してたんだ。
夕方 再び娘を迎えに行き 同方向のお友達も自宅まで送り届ける。
娘の帰宅後、「男の子たち来てたなぁ〜 びっくり」と言うと
「ああ、あれ?うちのクラスの男子。自分のことに必死で全然気づかへんかったけど、受付の記名見てわかった。ふたりとも野球部や。」
ええっ? 美人半東さんの彼じゃなかったの? ヤキューブぅー? そんな彼らがよく来てくれたね。娘の応援ありがとう。・・・ってことは? 何?どっち? ぷちイケメン? もしかしてイガグリの方?
母親の疑問をよそに娘はこう言った。
「今日 お床に飾ってあったお軸は”日々是好日”やってん。意味は、”今日の日が悪いことの起こった日であっても、今日こうして生きていることが良いことだ”ってことやねんて。」
ふーん なんかしみじみ良い言葉じゃん。日記のテーマにしたくなるくらい。
はるちゃん、よくがんばったね。お疲れさま。大学行って希望通り同好会があったなら是非お続けなさいな。おかーはんは、もっとええべべ着せてあげられるようもっときばるわな。