錦 

錦

カバーの模様の絢爛さに惹かれ母から借りたものである。
どこか心惹かれるその模様に覚えがあり、普段は絶対しない「あとがき」を先ず読むと、この小説のモチーフが龍村美術織物の創業者であることがわかり心躍った。
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実は、かねてから龍村美術織物の裂布模様には強烈に魅せられ、御池の本社、祇園のクラフトセンターに足を運び、迷いに迷って名刺入れに花文暈繝錦(かもんうんげんにしき)を自分用に買った覚えがある。たしか、復刻された猪柄のは旦那用に、あと2種、京都を離れる編集者の方と懇意にしていただいている長野の作家の方の贈答用に求めたのがきっかけであったように思う。
本作は、ドキュメンタリーの伝記ではないが、創業者 龍村平蔵が 菱村吉蔵と名を変え、その織物「錦」に魅了され、研鑽し憑かれた生涯が描かれている。主人公は男だが、それを取り巻く陰日向となりささえた秘書役で奉公人の仙、本妻むら、妾ふくと、それぞれの女性が主人に添う生き様もそれぞれに興味深く、あっという間に読了してしまった。舞台も大阪安土町、京都西陣 壬生森町、東京西片、兵庫宝塚と個人的に身近に感じるロケーションで、明治から昭和戦前の町並みや人々の暮らしが蘇っていて、映画を見ているようであった。
本書では、会話の部分が非常に多く占め、そのほとんどが大阪弁、京都弁であるため、関西弁になじみのない方はやや読みづらいかもしれない。
著者30年来の構想の下、書き上げた渾身の作品であるらしい。帯には宮尾文学の集大成と書かれてある。

陽暉楼と鬼龍院花子の生涯は読んだ記憶がある。女の哀しさが描かれてあったな。