オリヲン座からの招待状

記憶というものは、実に曖昧なもので当てにならない。
映画をみたものの、原作の細部まで覚えてないので、読み返すことにした。ラストシーンはどうであったか、しっかり覚えていなかった。
読み返すと映画とぜんぜん違っているのに驚いた。
映画では、「無法松の一生」が伏線になって留吉とトヨ中心にストーリーが展開するが、小説では、最後に掛けられたフィルムは「幕末太陽傳」で、ストーリーは西陣をでていった東京に住まう破局寸前の夫婦が主体で、もっと人間臭い。さらに京都もまた一段と濃い。
そして、旦那が気にしていた二人の関係もまた映画と違ってた。
浅田次郎の言葉を借りると

「おっちゃん、籍も入れて、おばちゃんの亭主になった。れっきとした夫婦やねん。夫婦が何もせえへんかったらやな、お天道様に申しわけないやろ。おばちゃんかて、まだ若かったんやし。−−(略)」

確かにこちらのほうが、納得するかも。夫婦として連れ添ってきた味わい深い愛がある。
映画と小説では訴えたい視点が違うが、どちらも感動を与える印象に残る作品には変わりない。

この短編集「鉄道員」で、もう1つ好きなのは、「うらぼんえ」なんだな。