アドルフに告ぐ 

Chumi2008-12-12


先日仕事がらみの講演会に出席したのがきっかけで、今 竹内オサム著の「手塚治虫」という本を読んでいる。手塚氏の生い立ちから、試行錯誤を繰り返しながらの作風の変遷まで、綿密な資料と取材に基づいて、「まんがの神様」と云われている手塚氏の生き様が分析されている。

手塚治虫―アーチストになるな (ミネルヴァ日本評伝選)

手塚治虫―アーチストになるな (ミネルヴァ日本評伝選)

その本文中で 手塚治虫が当初から、子ども向けの漫画を描こうとしていたのではなく、大人漫画を描こうとしていたことがあげられている、そして、その作風を代表するもの、手塚氏が経験したなまなましい戦争の描写として「アドルフに告ぐ」がとりあげられていた。
アドルフに告ぐ(1) (手塚治虫漫画全集)

アドルフに告ぐ(1) (手塚治虫漫画全集)

アドルフに告ぐ」というタイトルは耳にしていたが、内容はしらなかった。
ところが、先日ドラちゃんと飲んだときに、「ドイツ人女性から”日本人は何に対して償っていますか?”と言われ驚いた。”私たちドイツ人は、ナチスが犯した罪を償おうという氣持ちが常にあります”と彼女はゆうねん。」という話から、「ねぇ、知ってた? ヒットラーユダヤ人やってんよ。”アドルフに告ぐ”にそれが書かれてあった」と彼女が言いだし、この作品を是非とも読んでみたくなった。

アマゾンが待てずに 薄い希望を抱いて書店に向かえば、文藝春秋版が1〜5巻 各1巻ずつあった!まるで私を待ってたかのよう(笑)子どもの時には決してできなかった大人買いでがっつり5巻をしとめる。
この作品は外の出版社からも出されてるようで、私の手にしたのは、文春文庫が1992年1刷として出版し、2008年22刷のものだ。つまり今なお読み続けられているということ。

私にとってアニメではすっかりおなじみ手塚治虫だが、漫画を読んだのは、高校生の時の「ブラックジャック」くらいだ。ちょっと古典的かな?と思いつつ、アドルフを読み始める。
読み始めて、すぐ夢中になった。止まらない。ミステリーとリアリティが混在するストーリー展開の面白さが抜群。今読んでも新鮮に感じるから不思議。最後まで、かっちりとしたストーリで5巻を怒濤のように読み切ってしまった。

ナチスが何を目指しどう滅びて行ったのか、日本人ドイツ人ユダヤ人の関係と民族性、第2次世界大戦での日本(とりわけ神戸)の状況が解りやすい。さらに、正義とは何なのか? 何を大切にして生きてゆけば良いのかを問いかけている。子どもたちに読んでほしい。

現代の漫画の刺激的な描画に比べると、古典的な描画に感じるが、静止画なのに私には、アニメに映る。キャラクターが生きているのだ。加えて、ひとコマひとコマの背景がすごく綿密に描かれていて驚く。現代の売れっ子漫画家は、分業作業で、背景と言えば、アシストさんの仕事のようであるが、手塚氏は背景も自分で描いていると竹内氏は言う。元来「描く」ことが本当に好きだからだなんだそうだ。どうりで、と納得する。
2巻めの解説は、私の大好きな萩尾望都だ。なんか得した気分♪
   *)注:ヒトラーユダヤ人説は疑惑の領域をでていない